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裏庭の鶏

映画と本と、時々舞台

小説フランス革命1『革命のライオン』 感想

読書

小説フランス革命1『革命のライオン』
佐藤賢一

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1789年。フランス王国は破産の危機に瀕していた。大凶作による飢えと物価高騰で、苦しむ民衆の怒りは爆発寸前。財政立て直しのため、国王ルイ16世は170余年ぶりに全国三部会を召集する。貴族でありながら民衆から絶大な支持を得たミラボーは、平民代表として議会に乗り込むが、想像もしない難題が待ち受けていた―。男たちの理想が、野望が、歴史を変える!一大巨編、ここに開幕。(あらすじより)


 歴史ものを読みたくて手に取った一冊。全18巻にもわたる長編小説ですが一冊がとにかく薄い。しかも中をぺらぺらと覗くと章立てが細かいので読みやすそうだと思い購入しました。歴史ものは読むのに体力使うので一休みしやすい方が好みです……(笑)
 時代はタイトルからも分かりますが革命期のフランス。一巻『革命のライオン』では三部会の招集から国民議会の設立の宣言あたりまでを扱います。



 面白いです。比較的読みやすくスラスラと読めました。

 歴史ものでネックとなるのがこの時代の歴史的知識に自信がないけど大丈夫か、ということです。しかしその点については今のところ高校世界史程度の知識さえあればついていけますし、物語の冒頭で時の財務長官ネッケルが王に解説するという形で読者にも解説してくれているので困りませんでした。
 ただ、地理に疎いので「あれ、この人の出身は〇〇で、この人は……違う場所? さっき出てきたところかな?」となってしまうことが数回ありました。……これは単純に私がカタカナに慣れてないだけかもしれないですが(笑)


 さて、この1巻の主人公はミラボーと言っていいでしょう。タイトルとなっている「革命のライオン」とは彼のことを指します。

 確かミラボーといえば王党派で王政を残そうとしたとかなんとか。そんな印象の彼でしたがこの物語の中では結構かっこよく描かれてます。醜い外見と議会に轟く大声、そして文才と卓越した演説によって彼は革命の中心人物となります。
 しかし清廉潔白なヒーローには描かれておらず、むしろ駆け引きであったりだとか彼が抱える鬱屈とした部分だとかが強調されるように感じられました。アンチヒーローっぽいかもしれませんね。個人的に彼の見せ場は暴動を治めてみせ、みごと選挙に当選したところです。あのカリスマあふれるリーダー感は素直に「ミラボーかっこいい!」と思いました。そしてその一方で父親に対する感情は実に鬱屈としています。まあ人間だからこういう感情は持つよね…と思う反面、散々アンチヒーローっぽく描く割にカラッとした性格にしなかったことに今後の展開が恐ろしくもあり……(笑)


 三部会が招集されると今度はロベスピエールを主軸に置いて物語が展開されます。恐怖政治で有名なあのロベスピエールです。しかし現段階だと聡明で正義感の強い青年にすぎません。これが歴史モノじゃなかったら語り部ロベスピエールで主人公ミラボーみたいな、あるいはロベスピエールの成長物語とかになりそうだなあと思うぐらい「才能はあるけどまだまだ若い」という印象を受けました。今後この好青年が多くの人間をギロチン送りにするなんて想像つかないのですが……。

「ああ、私は議員に立候補する。今度こそルイ十六世陛下を助ける。フランス王国を改善する。それができれば、私は自分の人生に満点の誇りを持てるようになる。」
特にこの台詞、印象的でした。ここからどう歪むと仲間までギロチン送りにするようになるんだろう。

 ともかく、そんなロベスピエールはまだ冴えない感じでカリスマがあるわけでもなく、処女演説だって散々です。そこに登場するのがミラボーロベスピエールミラボーのことを「獅子のような男」と称し彼に傾倒していきます。なるほど、ここで目的のためなら手段は選ばないというのを覚えるのかな。と思いましたが、潔癖な彼はミラボーのやり方に少々嫌悪感を抱いている様子。ミラボーがたとえ話で下ネタをふり、それに対して不快感を覚えるという描写には少し微笑ましくなってしまいました。熱く理想に燃え、しかしどこか空回りしてしまう潔癖な青年なロベスピエール像、嫌いじゃないです。

 そんなこんなで一度はミラボーには頼らない!と思うロベスピエールですが、上手くいかず、やはり策を弄したミラボーによって国民議会は成立するわけです。そしてミラボーロベスピエールをフォローしつつ、「なぜと、好きな女のためだったら、汚れ役でも演じてしまうのが、本物の男というものじゃないかね」と一言。さらっとそんなこと言えちゃうミラボーはやっぱりかっこいい。
 ロベスピエールも汚れることを恐れまい、この胸に真の理想が息づくならば、その正義を底から信じられるならば、となんだかタームポイントになった様子。あーこれで革命後暴走していくんだろうなあと匂わせる一文でした。


 ところでこの小説、私にとっては読みやすいのですが文体にちょっと癖があるように感じます。もしかしたら苦手な人多いかも、なんて思っちゃいました。しかし日本人が書いた小説ですので翻訳独特の読みにくさと違い慣れてくるとスラスラ読めちゃいます。

 今後はおそらくちょっとだけ登場したカミーユ・デムーランも主軸となっていくんだろうなあと思いつつ読み進めていこうと思います。
 個人的にはロベスピエールがどう変貌していくのかに注目しながらミラボーのかっこよさにしびれたい(笑)