『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』 感想
今更ながら『アリス』見ました。思っていたよりも面白かったです。
●あらすじと簡単な感想(ネタバレ注意)
簡単に言ってしまえばアリスがマッドハッターを助ける話でした。アブソレムの助けに応じて鏡を通して再びアンダーランドに訪れるアリス。前作でお馴染みの仲間たちに再会すると彼らは、マッドハッターの様子がおかしい、アリスなら彼をもとの彼にしてくれるはず、と言います。
ここのシーン、とにかく美しいんです! 白の世界に淡いピンクの桜が満開で「大画面で見てよかったなあ」「映画館で見る映画はやっぱり素敵だなあ」と思う瞬間です。
そしてアンハサウェイ扮するミラーナ、相変わらず美しい…!あの鬱陶しい独特の動きはちょっと抑えめかな?
ともあれマッドハッターのもとを尋ねるアリス。彼は死んだと思っていた彼の家族がまだ生きているに違いないと言い張りふさぎ込んでしまっています。アリスはもう家族は死んだのだと慰めるがハッターは君は僕のアリスではない、出ていけと自分の殻に閉じこもってしまうのですが……ジョニー・デップ、老けました。ちょっとびっくりしてしまうぐらいに老けていて……。
ここのシーン、ふさぎ込んだハッターの色彩が全体的にくすんでいて、もう彼のイッちゃっている感じがぱっと伝わってくるのです。
が、それ以上にジョニー・デップ自身が老けてきているのも相まってかとても痛々しい。ありゃあ心配になるわ。
そんな痛ましい彼を助けるためにミラーナが思いついたのは《時間を遡る》こと。なんでも《タイム》が持つ《クロノスフィア》があれば過去に飛べるのだとか。しかしアンダーランドの住人がそれを使い過去の自分に出会ってしまうとアンダーランドが破壊されてしまう。アリスしかそれを使うことはできない。それを使ってハッターの家族が死んだ時まで遡り助ける、という算段です。
完全にアリスは暴走してますね。ここのアリスの暴走についてはちょっと思うところがあったのでここでは割愛。
そしてアリスは《タイム》の城を訪ね《タイム》に《クロノスフィア》を貸してくれないかと頼みます。しかし《クロノスフィア》はアンダーランドの時間を司る《大時計》を動かすエネルギー源です。《大時計》と一心同体の《タイム》はクロノスフィアを貸すことなどできるわけもありません。
一回はタイムに断られるアリスですが、それで諦めるアリスではありません。タイムのもとを訪ねた赤の女王イラスベスを見て驚くと同時に隙を見てクロノスフィアを盗みタイムトラベル!
クロノスフィアに乗ってタイムトラベルするシーンには驚きました。まさかクロノスフィアが乗り物になるとは(笑)
そして時空の描き方がカッコイイこと!なるほど、時空=波なのね。そして時間の《波》の間をクロノスフィアに乗って飛び回るアリスとヨットみたいなのに乗るタイムのカーチェイス(車ではないけど)はタイムが完全にイッちゃってて面白いです。頭おかしいだろって笑い声でした。陽気にクレイジーなタイムさん。好きです。
そんなこんなでカーチェイスを繰り広げつつアリスは
イラスベスの戴冠式の日
↓
イラスベスら姉妹の少女時代
↓
ハッターの家族が殺された事件の日
の順に遡ります。
そこでアリスは姉妹の確執とイラスベスがハッターの一族を恨み事件の日に復讐のために彼らを捕らえたこと、そして例えアンダーランドの住人でなくとも過去が変えられないことを知ります。
うーーん……まさか姉妹の確執を描くとは。普通にイラスベス可哀想だし、少女時代は両親に愛されてるしで、続編を作るにあたって作った設定なんだろうなあと感じちゃいました。前作との矛盾はそこまで感じられなかったのでまあいいかという感じですが…。
少女時代の事故で頭が腫れ、そこからずっと馬鹿にされ続け、戴冠式では大衆の面前で笑いものにされたらキレるよなぁ、イラスべス悪くないじゃん?と思ってしまいます。
しかしそれで首を刎ねよ〜ってなるのはそりゃ王の器じゃないから父親が妹のミラーナに後継を決めたのも納得できます。
ともあれアリスはまだハッターの家族が生きていることを知り、ミラーナやハッターはじめとするお馴染みの仲間たちと共にイラスベスのもとへ駆ける!薄々感じてはいたけど白ウサギやらチェシャ猫は完全にモブです(笑)
ここは以外にもあっさりと無事にハッターの家族を見つけます。小さくなった家族、可愛い(笑)
しかしあっさり見つかるなんて言うのは十中八九罠ですよね。はい、やっぱり罠で、イラスベスに捕らえられクロノスフィアを奪われてしまいます。
ちなみにこの時、タイムもイラスべスに捕らえられています。おじさん、非力かな?
イラスベスはミラーナを連れて問題の少女時代へ。そしてそこで少女時代の自分の前に出てしまいます。フラグは回収されました。イラスべスが幼い自分の前に表れたその瞬間、彼女は赤い錆になってしまいました。そして彼女だけではなく、世界そのものが赤い錆びに覆われていきます。
ここの描写、ヒエっとなりました。なるほど、世界が崩壊するって世界が赤い錆になってしまうのね、と。
色々割愛させて頂くと、なんとかアリスが頑張ってクロノスフィアを大時計に戻してアンダーランドの崩壊を止め、姉妹も和解しました、という流れ。
ラストはアリスがタイムにクロノスフィアを盗んだことを謝り父の形見である懐中時計を渡し、現実世界では母親のため父の船を手放すことを決意します。……って言っても最後は母親が契約を破棄して新しい会社を起ち上げます。
●感想
悪くないです。悪くないですが、前作アリスインワンダーランドを期待しているとがっかりするかも? 良くも悪くも素直なお話でした。どんでん返しな展開とか意外性とかはないです。
それでもそこそこ楽しめたので名作ではないものの良作という感じでしょうか。
前作では隠れていた、あるいは隠されていたアリスの「アリスらしさ」を見つける話(それがテーマとは言わないけれど)だとすれば、今作ではアリスが前に進む話。つまり成長物語。アリスは過去=父親に囚われすぎていた自分に気付き未来と今=母親に向き合うようになった、という感じでしょう。監督が変わって方向性も少し変わったのかな?
しかし、姉妹の確執えらくあっさりしてるがそれでいいの?っていうのが正直なところ。
粗は目立ちますが、そこに目を瞑ればそれでも幼い頃に謝ることが出来なかったミラーナがイラスべスに「ごめんなさい、許してほしい」と涙ながらに訴え「その言葉が聞きたかった」とイラスべスが言うシーンはアンハサウェイの美しさが際立っていてグッときました。
一方で、その程度で和解できるものだったのか、と拍子抜けしてしまうというのもあります。キャラクター設定的にすぐ和解できそうにないだろ~~というつっこみを入れたい。
あと、アリスがアンダーランドに行っている間、なんだか現実世界にもアリスが存在しているような描写がありましたが……ちょっとその設定無理がないかなあ。それだと前作での時間軸であったりだとか、今回の時間軸であったりだとか、色々矛盾が生じてしまいそうな?一回しか見ていないので私自身がなにか見落としているのかもしれませんが……。
個人的にはその設定いらなかったかなあ、と。
とまあ、ストーリーには不満がないわけではないのですが、とにかく映像が素晴らしい!前作はティム・バートンワールド全開の映像美でしたが、今回はすっきりとまとまった映像美でしたね。
以下、特に気になったところを簡単に。
●邦題について
タイトルについては原題よりも邦題の方が内容にあっていたように思います。それに情緒を感じるかどうかは別として(笑)
原題は鏡の国のアリス。つまり前作不思議の国のアリスの続編ということを伝えたいのかな、と。でも日本では鏡の国のアリスの知名度は低い、そこで邦題を新たに作ったのかもと思いました。鏡の国のアリスの方がカッコイイけど流石に鏡の国のアリスだと意味不明になっちゃうしね。
●アリスの暴走
今回のストーリーではアリスが少し暴走気味の様に思いました。前作では想像力豊かなアリスがそれを押さえつけられていましたがアンダーランドにきてそれを開放する。自分自身を取り戻す、というストーリーでした。
しかし今作では初っ端からアリスは男に混ざり船に乗り、海賊を巻いて立派な船長を務めます。ここまでは前作までの「アリスらしさ」を象徴するかのようなシーンです。
問題なのは次のシーン。彼女は尊敬する父にとらわれ過ぎています。父親の様に、父親の娘として、といったやや前のめりなアリスが描かれているように感じられました。そしてそれは母親への接し方にも表れています。彼女の中だと父親>母親なのでしょう。
そしてパーティ―でのドレス。中国で手に入れたというドレスを纏い他人の奇異なものを見るかのような視線も気にしません。母親はちょっと肩身が狭そう。
このアリスには「私は私の好きなように生きる」という精神ではなく、周りへの反抗心のようなものさえ感じました。私は他の人間とは違うのだ、私はアリス・キングスレーなのだ、と周りに主張しているかのようです。そしてそれはおそらくこの時代の男女の差を乗り越える上での彼女なりの意思表示のようにさえ感じられます。人とは違う衣装は彼女にとっての鎧だったのではないかと。
そしてもう一つのアリスの暴走ですが、やはりクロノスフィアを盗むのは完全に暴走でしたね。それはアリス、ヤバイよ、暴走しすぎぃ!と思わざるをえませんでした。この時のアリスはもう周りが見えていないのかなんなのか、やる気満々です。
ここのアリスはもしかしたら自分とハッターを重ねているからこその暴走でしょう。
勿論クロノスフィアを盗んだ一番の理由はハッターを助けてあげたい、ということです。けれど、死んでしまった家族にあわせてあげたいというのは、彼女自身が死んでしまった父親に会いたいからではないでしょうか。彼女はロンドンで母親に父親がいなくて寂しい、会いたい、と漏らしていたのだから。だから自分のことのように盲目的になれたのだと思います。
彼女は現実世界で時間は大切な人を奪う泥棒だ、とさえ言っているのですから。
今作でのアリスの暴走、おそらくアリスにイライラする人は多いだろうなあと思います。それもそのはず、彼女は実にエゴイスティックですから。
ストーリーの中でアリスがいかにして過去に囚われていた自分を捨てるのかをはっきりと描いていないので「冒険してたらなんか一皮むけました」「過去を無理やり変えようとしても無理みたいなので過去は過去として受け入れることにしました」みたいななんとなく消化不良な感じは否めないのも事実ですが、そこはまあ……深読み技術を駆使していきたいです(笑)
●タイムというキャラクター
この作品の中で一番魅力的だったキャラクターは間違いなく彼でしょう。この《タイム》、なかなかに設定が面白いのです。
おそらく彼は名前の通り《時間》を司る存在なのでしょう。しかし神ではありません。つまり《時間》そのものなのです。名前もTimeだからtimeという単語が出ると彼を指しているのか時間を指しているのか……もう混乱してしまうのですがそういった言葉遊びもこの映画の面白いところです。……しかし私は字幕で見たのですがが吹き替えではどう処理したのでしょうか?
ともあれ彼は時間を司っているのですが、その時間とはアンダーランドの住人の時間、つまり生死さえも管理しているらしいのです。とはいうものの、生かす殺すではなく時間切れの者=生を終えた者の時計を生の空間から死の空間へと移す役割。な、なるほど……。
そんな超越した存在な彼ですが、どこか不遜で、しかし一方でイラスべスのことを一応レディとして扱っているのが微笑ましくもありました。
初登場ではなんだこのカボチャパンツは?!と思いましたがこの映画を見て一番好きになったキャラクターは彼かもしれません。
●最後に
私はエンターテイメントに特化した映画が大好きです。一方で重いテーマを扱った非常にメッセージ性の強い映画も大好きです。
その点この映画はエンタメ作品として、特に映像美や独特の世界観を楽しむ作品だと感じました。好き嫌いはあるでしょうが私は結構満足出来ました。リピートはしないしBlu-rayを買うこともないでしょうが、見て損した~という感情はありません。
欲を言うならばジョニー・デップの痛々しさがあんまりだったからその辺何とかしてほしいです……(笑)
『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』
●スタッフ
監督ジェームズ・ボビン
製作ティム・バートン
製作総指揮ジョン・G・スコッティ
キャラクター原案ルイス・キャロル
脚本リンダ・ウールバートン
撮影スチュアート・ドライバーグ
美術ダン・ヘナ
衣装コリーン・アトウッド
編集アンドリュー・ワイスブラム
音楽ダニー・エルフマン
●キャスト
アリス・キングスレー ミア・ワシコウスカ
マッドハッター ジョニー・デップ
白の女王(ミラーナ) アン・ハサウェイ
赤の女王(イラスベス)ヘレナ・ボナム・カーター
タイム サシャ・バロン・コーエン