裏庭の鶏

映画と本と、時々舞台

八月納涼歌舞伎@歌舞伎座(2016/08/11)

2016/08/11 8月納涼歌舞伎@歌舞伎座
第三部
土蜘蛛
廓噺山名屋浦里

 今更ですが8月11日に歌舞伎を見に行きましたので感想を。
 歌舞伎初心者なので感想が頓珍漢かもしれませんが許してください(笑)

一、新古演劇十種の内 土蜘(つちぐも)

土蜘退治伝説をもとにした松羽目物の荘重な舞踊劇
 病の床に伏せる源頼光のもとへ、典薬頭の薬を届けに侍女の胡蝶がやって来ます。頼光の所望に従い胡蝶が紅葉の様子を物語ると、頼光は一時病のことを忘れます。その後、胡蝶が去り再び苦しむ頼光の前に、どこからともなく智籌と名のる僧が現れ、病平癒の祈念を申し出ます。しかし、灯下に映る智籌の怪しい影に気づき頼光が刀で斬りつけると、土蜘の精の本性を顕し消え失せます。そして館の庭では番卒たちが土蜘退治を祈願し、巫子は諫めの舞を舞い始めます。一方、土蜘退治に向かう保昌が四天王とともに智籌の血潮を辿り東寺の裏手に着くと…。
 智籌の漂わせる不気味さ、千筋の糸を投げかけての勇壮な立廻りをご堪能ください。

二、廓噺山名屋浦里(さとのうわさやまなやうらざと)

堅物の田舎侍と吉原随一の花魁が魅せる人情噺
 江戸留守居役の寄合で、江戸の流儀に馴染めぬ酒井は、次回は自分の役宅で国の行く末を語り合おうと提案します。しかし、次回は互いに馴染みの遊女を紹介する趣向だと告げられたうえ、国元の踊りを笑われ、主君の悪口まで言われた酒井は、次回は自分も馴染みの女を紹介すると言い切ります。その直後、吉原一の花魁、山名屋浦里と偶然に出会った酒井は、ある決意をして山名屋へ乗り込むと、主人の平兵衛に、浦里に会わせてもらいたいと懇願します。丁重に廓の掟を説く平兵衛らのもとに、意外な人物が姿を現し…。
 笑福亭鶴瓶新作落語「山名屋浦里」を題材にした新作歌舞伎にご期待ください。

(公式HPより引用)

●感想
■土蜘蛛
 初めて見る演目でしたので取り敢えず字幕ガイドを利用しました。しかしちょっと失敗だったのは、今回はA席だったのですが端の方だったので字幕ガイドを見ているとせっかくの舞踊が見れない!! しかし字幕ガイドの解説がないと舞踊が理解できない!! 初心者は最初に予習しないとだめですね……。

 さて、最初の場面ですが、頼光が登場するということでもや~っと頭の中で想像した姿はおじさまかお爺さんでした。しかし登場すると結構若い姿でしたので少し驚き。これは後で気が付いたのですが、完全に頼政とイメージがかぶってしまっていたみたいです。他の登場人物に関しては保昌がなかなか格好良くて一目見て彼が主人公なのかな、と感じました。あと、小姓の音若が本当に若くて声変わりしてなくて可愛いです。

 そしてここでは舞踊が主なわけですが……正直眠かったなかなか難しいなあと思いました。字幕ガイドをチラチラしながらですから集中出来なかったというのもあるかもしれません。隣の方も爆睡していて……しかし隣の方に関しては少し思うことがあったのでここでは割愛。
 舞踊に関してですが、病に伏した原因を回想する頼光が優雅で抱きしめるような仕草がぐっときました。オペラグラスを使用しなかったので表情までは確認できませんでしたが、もしもまた観劇することがあったら表情も確認したいなあと思いました。しかし、女の人の舞が紅葉の名所に関するものらしいけど……うーんよく分からず(^_^;)

 でも! 智籌! 花道にぬっと現れる感じがなんとも格好良く、智籌の舞は眠くならなりませんでした。そしてその正体が小姓にばれてからの舞が格好良い! 手から糸を出すのが綺麗でしたね~。これを見に来た!! と興奮します(笑)あと、忘れてはならない智籌を退ける頼光。めちゃくちゃ格好良いじゃないですか。さすが頼光。


 そして途中の箸休め。小さい子がとにかく可愛い。内容もコミカルでとっつきやすいというか、構えなくていいというか。それまでの眠気(ごめんなさい)も吹っ飛びました。えいえい、みたいに手を振る仕草の可愛さ、プライスレス。


 箸休めが終わるといよいよ土蜘蛛を退治する場面! しかし初心者丸出しの感想なのですが、この場面はてっきり頼光が活躍するんだとばかり思っていたので……保昌と四天王なのですね。名前しか聞いたことのなかった頼光ですが、平安ゴーストバスターズというイメージのせいか彼自身がばったばったと妖怪を退治していくんだと思ってました(笑)
 というか蜘蛛塚。なんだろうあの蜘蛛塚。舞台セットの豪華さというのはあまり気にしないのですが、あの蜘蛛塚は少し笑ってしましました。なんだか……とっても…チープ。加えて気になってしまったのが四天王台詞全員名乗れていなかったというところ。うーーん。これ大丈夫なのかなあと不安になってしまいました。

 しかし!殺陣が始まると魅入ってしまいました。少年漫画っぽさも感じられるような圧倒的な土蜘蛛の存在感に字幕ガイドも見れず。あのギャグみたいな蜘蛛塚(笑)も気にならなくなっていました。凄い。おかげさまで字幕ガイドが見れなかったので気がついたら倒されていたのですが、見終わった後もしばらくぼーっと余韻に浸ってしまいます。歌舞伎のパワーってすごいんだなあとしみじみ。


廓噺山名屋浦里
 こちらは新作ですね。歌舞伎にネタバレという概念はないと思っているのですが、新作なのでその辺ちょっと感覚つかめないのですが……一応ストーリーに触れた感想ですのでご注意下さい。

 実はこの「新作」という響き、ちょっと不安だったんです。過去に見た歌舞伎(といっても少ないのですが)の中で字幕の必要がなくセリフも聞きやすいものがいくつかありました。一つは『落窪物語』でもう一つが『鵺退治』です。その二つが私には合わなかったというか……。落窪物語はお酒飲んだ姫が最強になるというストーリーに釈然としなかったし、鵺退治は肝心の鵺がお粗末な着ぐるみだったものだから頼政と鵺が戯れているようにしか見えなかったんです。だから今回の新作も演出、ストーリーともにイマイチだったら嫌だなあとハードル下げてたんですね。
 しかし実際始まってみると、今まで見た中で一番好きかもしれません。

 ポイントは分かりやすさ。字幕いらずでちゃんとストーリーに入り込めるというのも多きな要因の一つです。が、何よりもストーリーそのものの魅力が大きいと思います。何のひねりもなくオチまで読めてしまう実にシンプルなストーリーの中で、笑わせるポイント、泣かせるポイントがあり、ぐいぐいとその世界に引き込まれる。そして登場人物、特に酒井と浦里というキャラクターの魅力が心に残る。幕見でいいからまた見たいと思わせる演目でした。オペラグラス持ってきていなかったのを激しく後悔(笑)


 以下、登場人物別の感想を。

宗酒井十郎勘九郎
 登場からして彼の生真面目さを感じられました。あの早口でべらべらとお堅いことをちゃらんぽらんな上司に浴びさせる様子がなんだか微笑ましいような気持ちになります。あ~きっと彼は真面目なんだろうけど空気読めないんだろうなあというのが伝わってくる。そして主君を侮辱されたときのビシビシ伝わってくる怒気。何故か息を止めてしまった(笑)

 けれど直後の浦里に一目惚れしてしまうシーン! 花火が打ちあがる! なんて分かりやすい演出! そこがいい! ここで酒井の時間がピタッと止まってしまっていて、是非ともオペラグラスで見たかったのですが、絶対目を見開いてたんだろうなあと想像しています。それぐらい浦里に心奪われていて故郷に奥さんいるんでしょとか思わなかったしもしかして初恋なのかと思いました。まさに少女漫画。少女漫画あんまり読まないのでイメージですけど。
 その後もどこか夢うつつな酒井。頑張れ頑張れと応援したくなる可愛らしい生真面目さです。

 その後も酒井の生真面目さに何度も笑わせてもらいました。個人的ベストシーンは山名屋の前で声を小さくしてしまうところ(笑)分かりやすく一人で勝手に気まずい気分になってる酒井が可愛らしく思えてきます。

 そしてなんといっても寄合で浦里が登場するシーン!! あの腰を抜かして、それでも虚勢を張るけどやっぱりビビってしまっている酒井。あの瞬間が最高に輝いていたと思う。勿論個人的な意見ですが(笑)
 だって綺麗な浦里に寄り添われて体こわばらせて「ひえ~~~」って。「ひえ~~~」って言ってたかはもう記憶が曖昧になっているのですが、遠目から見ても分かる「ひえ~~~」感。最高です。


 と、ここまでいかに酒井が生真面目でなんだか応援したくなるヘタレ予備軍な愛すべきキャラクターかを語ってきたつもりでしたが、彼はやはり誠実なんですね。浦里に一目惚れしてしまった、と書きましたが、それは恋愛感情ではない、と。浦里の気品に惚れたのだと。台詞の詳細は忘れてしまいましたがそんなようなことをしどろもどろになりながらもやっぱりヘタレっぽく一所懸命に口にする姿は心打たれます。
 存在しか登場しませんが酒井の奥さんは幸せ者だなあと思ってしまいました(笑)



花魁浦里七之助
 浦里に関してはめちゃくちゃ綺麗でめちゃくちゃ格好良い。この一言につきます。たぶんこの演目の中で一番男前。語弊がありますが、男っぽいとかそういうのではなく。内面イケメンってやつです。お姿は本当に綺麗でした。真っ直ぐ前を向いて「この人(酒井)は私が惚れた唯一の人だから!」みたいに宣言する場面は痺れました。格好良すぎ。
 それなのに自分の身の上話をするときはなんだか可愛らしく見えてしまい……。この人本当に男?本当に魅力あふれるキャラクターです。

 浦里の幼い頃の健気さであったり、苦労であったりを話すときはおそらくは年相応(何歳なのかは知りませんが)なのだろう心の弱さのようなものを見せています。弱さといってもメンタルが豆腐というわけではなく、人並みの心の柔らかい部分を見せているということなのですが、それがお里の言葉でとつとつと話す姿にグッときます。そしてそれを隠し、毅然とした美しい花魁姿をみせるそのギャップには目を見張りました。ただの田舎娘が「花魁浦里」に変化する姿は間違いなく格好いい。
 それでしかも、ちょっと酒井の奥さんに嫉妬する姿が可愛らしいって。本当何なんでしょうか。可愛い。


友蔵駿河太郎
 ちょっと辛口な感想なのですが……ちょっと演技が浮いていたような。お調子者で喧しい役どころなのでしょう。が、うるさすぎ(笑)せめてもうちょっと緩急を付けてくれたらよかったのになあと思ってしまいました。(なんだか上からでごめんなさい…)



 他の役者さんはちょっと記憶が劣化してきているので割愛しますが、平兵衛は貫禄あって格好いいなあと思いました。



 また暇があれば浦里だけでも幕見で見たいです。