裏庭の鶏

映画と本と、時々舞台

『ハドソン川の奇跡』 感想

 登場する一人一人が生きていると思える作品でした。

 機内にいたのは無個性な155人の集合ではないし、かかわる人物全てに感情があります。その日何が起きたのかであったりサリーの青年時代であったりが徐々に明確になり、それと同時にサリーの感情がリアルに感じられる素敵な作品でした。

 以下、ネタバレ含む感想を。

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 サリーは感情を表に出しすぎない人物です。けれどロボットのように機械的な冷静さではない。冷静さの中に揺れ動く人間らしい感情がうごめいているのだと感じました。変な言い方になりますが感情の動きが段取り臭くないんです。じゃあ他の映画は段取り臭いのかと問われたらそんなことはないのですが^^; 、不思議とそんなことを思いました。
 

 印象的だったのは何かに衝き動かされるようにランニングをするサリーがハドソン川の奇跡を伝えるニュースから逃げるように路地裏に向かうシーンでした。
 もし自分の判断が誤っていたとしたらという自分自身に対する疑いであるとか、自分の感覚は正しかったはずだという自負だとか、そんなことがぐるぐると巡っていたのではと感じました。

 それにサリー自身も恐怖を感じていなかったわけはなく、何度も見てしまう飛行機がビル街に墜落するイメージに「これはサリーの〈イメージ〉だ」と分かっていても息を止めてしまいます。


 最後にサリーはシュミレーションにおけるミスを指摘し自分の判断が、感覚が正しかったことを証明します。そして「誇らしい」と言います。

 映画とはいえ、サリーのプロ意識であるとか、つとめて冷静でいようとする姿勢であるとかに感動しました。なんて尊敬できる人なのだろうとも思います。
 一方でそんな彼も万能ではない、人間らしい迷いや不安、恐怖を感じるというのがリアルに感じられます。そこを含めてサリーという人間とハドソン川の奇跡という実際の出来事に感動しました。

 比較的短い映画ですが、濃厚な時間を楽しむことができる素敵な映画です。
 最近は原作も読みたいな、なんて思い本屋をうろついてます(笑)


●スタッフ
監督:クリント・イーストウッド
製作:クリント・イーストウッド
   フランク・マーシャル
   アリン・スチュワート
   ティム・ムーア
製作総指揮:キップ・ネルソン
      ブルース・バーマン
脚本:トッド・コマーニキ
原作:チェズレイ・サレンバーガー
  ジェフリー・ザスロー

●作品データ
原題:Sully
製作年:2016年
製作国:アメリカ
配給:ワーナー・ブラザース
上映時間:96分