『ジャングルブック』 感想
楽しみにしていた『ジャングルブック』を見てきました。良くも悪くもアニメの方のジャングルブックを思い出させる作品。
●感想(ネタバレ注意)
見終わった後の何とも言えない感覚が昔見たアニメ映画の『ジャングルブック』を見た後の感覚を思い出させてくれました。要するに可もなく不可もなく大人が見るには物足りないけど子供が見るには楽しい内容だと思います。シンプルなストーリーだから分かりやすいしね。
ただ、チラシにあった「生きる力が溢れ出す」みたいなキャッチコピー。別に生きる力は溢れ出してこなかった(笑)
ストーリーに関して、アニメと大きく違ったのはやはりラスト。モーグリが人間社会に帰らないところです。この点はもっと上手く処理してほしかったなあと思います。
モーグリは確かにジャングルで育ち、動物たちと会話する《特別な》《人間》です。そう、《特別》であっても《人間》であることには変わりなく、この物語のキーでもある動物たちが恐れる《赤い花》=《火》を操る《人間》なんです。クマや狼、黒豹といった種族の壁よりももっとずっと大きな壁として存在する《人間》と《動物》の壁。
アニメだとモーグリが人間の女の子に一目惚れしてしまって人間の村に行くというエンドだったように記憶しています。これはなかなか生々しくて、初めて見たときにぎょっとした記憶(笑)
そういう生々しさである必要はないのですが、この映画でも《道具》を使うモーグリは《狼》として、ひいては《ジャングルの動物》としてズルをしていることになる。しかし宿敵シアカーンと対峙する時は《道具》を使って戦え、つまり《人間》として戦えと背中を押されるのです。
そしてシアカーンを倒した後、冒頭と同じように追いかけっ子をするモーグリと狼の子どもたちですが、もうモーグリは《狼》らしくするのではなく《人間》らしく頭を使うことに自信を持っている様子。きっと彼の中で自分の人間としてのアイデンティティが生まれたのかな、と感じるシーンでした。
じゃあ人間社会に帰れば?と思ってしまったことをここに告白します(笑)
この映画だと《ジャングルの動物》としてではなく《人間》としてのモーグリがジャングルの仲間たちに認められた、ということなのかなと解釈していますが……。
個人的にはジャングル育ちの《人間》モーグリの冒険であってほしかったというか、《ジャングルの仲間》の人間モーグリというのがなんとも違和感でして。
《人間》らしい賢さを持つモーグリとあくまでも《動物》であるジャングルの仲間たちの間にそびえ立つ高い高い壁はそう簡単に乗り越えられるものじゃない、いつかモーグリは人間の社会に帰らなければならなくなるのでは、と無粋なことを考えてしまいました。
けれど個人的に嬉しかったのが、ミュージカルではないけれど大好きな2つのナンバーが本編で歌われたこと!
1つはクマのバルーが歌う「The Bare Necessities」です。何度も何度も聞いたこの曲がモーグリとバルーが歌ってるだけで感動してしまいました(笑)
もう1つは猿のキングルーイが歌う「I Wanna Be Like You」で、こちらはアニメよりも威圧感ありました。多分いかつい絵面のせいですね。アニメだとあんなに陽気なナンバーなのに陽気さがなくて驚きました。
ディズニーミュージックは頭に残りやすく、ついつい口ずさみたくなる音楽が多いのでアニメのジャングルブックの魅力はこの二曲だったように記憶しています。ですから実写版でよくぞ残してくれた!と思わず親指を立てたくなりました。
しかしアニメを見ていない人からすればなんで歌いだしたんだ?と困惑したんじゃ……。
そして、歌という点ではカーの「Trust in Me」が歌われなかったのは少し残念でした……が、エンディングで歌っていたので満足です!
でもちょっと気になったのはカーがメスになっていたこと。あれカーってメスだったっけ、とそればかり気になってしまいました。もしも本編で歌われてたら少年を誘惑するお姉さんみたいな犯罪臭しただろうなと思うセクシーボイスでした。調べたらスカーレットヨハンソン。なるほど。
以下、キャラクター別感想。
●モーグリ(ニール・セディ)
2000人の中から選ばれたニール・セディ君、周りが全てCGなのに生き生き演じていて見ている時は違和感なく物語に入っていけました。凄い。
しかしモーグリは賢い男の子です。
道具を使う、火を使う。そういった人間的な賢さではなく、感情の抑え方と表現すればいいんでしょうか。少年らしい感情も見え隠れするのですが、一方で一歩引いたところから自分の立場を見ることができる男の子として描かれているように思います。物分りがいい、というよりも健気な印象でした。
●バギーラ(ベン・キングズレー)
格好良い黒豹のおじさん。幼いモーグリをジャングルの仲間として迎え入れ狼の群れに預けた彼は遠縁のおじさんといった存在なのでしょうが、モーグリを見るその目は父親のそれでした。
アニメだともっと世話焼きだったように思いますがこちらでは見守る感じですね。全体的に。しなやかな黒い毛並みの体が美しいです。
●バルー( ビル・マーレイ )
陽気なプーさんクマさんでした。はちみつ、どこかな。
怠け者でマイペース、でもどこか抜け目ないバルーがモーグリに親愛を向けていく様子が微笑ましく、ぜえぜえ言いながら崖を登るところは可愛いです。ちなみにあのシーンはバギーラの格好良さも素晴らしかったです。
●ラクシャ(ルピタ・ニョンゴ)
格好良いお母さんでした。印象的だったのはシアカーンにカッコウと皮肉られるシーン。あの怒りとも動揺ともとれる反応にドキッとしました。
シアカーンの言うとおりラクシャはカッコウを育てる親鳥同然なわけで、自分の子どもたちとモーグリの間の大きな隔たりをラクシャも感じていたはずです。私はきっと道具を使うモーグリに《脅威》を感じることだってあったんじゃないかと思います。あくまでも想像ですが。
それでもモーグリを自分の子どもだと言うラクシャは強い女という感じですね。
●シア・カーン(イドリス・エルバ)
火で片目に傷を負った虎で本作の敵ですが、残念ながら傷が分かりにくい。その分ちゃんと(?)その傷を見つけてしまうと少しぎょっとする仕様になっていますね。
なんとなくジャングルの中でもラスボス的な立場のシアカーンですが、残念ながら彼が一番正しい気がしないでもない。少なくとも最初はモーグリは脅威だからジャングルから追い出せ、じゃなきゃ殺すって感じでしたからね。彼の一番《敵》らしいところは人間社会に戻ろうとするモーグリを執拗に殺そうとし、そのためにアキーラを殺したところですね。アキーラがふっとばされた時、とても驚いた。
● キング・ルーイ(クリストファー・ウォーケン)
デカイ。驚きました。サイズ感間違ってない?と聞きたくなるぐらいデカイ。オランウータンじゃないだろと思うサイズ感。
そして威圧感凄い。デカイから威圧感すごいのか、それとも本作ではそういうキャラでいくのか、と思っていたらどうやら両方らしい。アニメだと人間になりたいちょっと風変わりな猿で陽気に歌い踊るイメージだったので……。まさかあの陽気な歌があんな威圧感たっぷりに歌われるとは。
そして、やっぱりデカイ(笑)
●カー(スカーレット・ヨハンソン)
セクシーボイスの性転換した大蛇。もともとシアカーンの手下だったのが一転してモーグリの捕食者かつモーグリの出生を語る役割を担うキャラクターに。劇中では歌っていませんでしたがエンディングでは色っぽく歌ってました。この為に設定変えたんでしょうか……?
凄く期待して見に行ってしまったので拍子抜けしてしまいましたが、概ね楽しめました。でもリピートはしないしブルーレイも買わないと思います。吹き替えは迷いますが……バルーの声がただの西田敏行なのでやめておこうかと(笑)
最近のディズニーは実写リメイクがブームらしいので次のリメイク(確か美女と野獣)にも期待したいです。特に音楽。
●スタッフ
監督:ジョン・ファヴロー
脚本:ジャスティン・マークス
製作:ジョン・ファヴロー, p.g.a
ブリガム・テイラー, p.g.a
製作総指揮:ピーター・M・トビヤンセン
モリー・アレン
カレン・ギルティリスト
撮影:ビル・ポープ, ASC
プロダクション・デザイン:クリストファー・グラス
編集:マーク・リヴォルシー, ACE
衣裳:ローラ・ジーン・シャノン
視覚効果スーパーバイザー:ロバート・レガート
音楽:ジョン・デブニー
●キャスト
モーグリ:ニール・セディ
バギーラ:ベン・キングズレー
バルー:ビル・マーレイ
ラクシャ:ルピタ・ニョンゴ
シア・カーン:イドリス・エルバ
カー:スカーレット・ヨハンソン
アキーラ:ジャンカルロ・エスポジート
キング・ルーイ:クリストファー・ウォーケン